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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)291号 判決 1996年10月29日

京都府京都市山科区北花山大林町60番地の1

原告

竹中エンジニアリング株式会社

同代表者代表取締役

竹中紳策

同訴訟代理人弁護士

山口義治

同弁理士

新実健郎

村田紀子

武石靖彦

滋賀県大津市におの浜4丁目7番5号

被告

オプテックス株式会社

同代表者代表取締役

小林徹

同訴訟代理人弁理士

西田新

同弁護士

植山昇

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成4年審判第17235号事件について平成6年10月18日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「移動人体検出装置」とする登録第1841197号実用新案(昭和54年11月19日特許出願。昭和62年6月24日実用新案登録出願に変更。平成2年11月22日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成4年9月7日、本件考案につき無効審判の請求をした。特許庁は、この請求を同年審判第17235号事件として審理した結果、平成6年10月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月15日原告に送達された。

2  本件考案の要旨

人体が放射する波長10μm付近の遠赤外線エネルギーを検出する装置であって、容器と一体に成形された高密度ポリエチレンより成る窓と、その窓の透過光をその容器内で集束させる光学手段と、その集束位置に配設された差動型遠赤外線検出センサを有することを特徴とする移動人体検出装置。(別紙図面1第1図参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  請求人(原告)は、実質上次の証拠(本訴における書証番号で表示する。以下、同じ。)を提出し、本件考案は、それらに記載された考案からきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は実用新案法3条2項の規定に違反してなされたものであり、実用新案法37条1項1号の規定により無効とされるべきである旨主張している。

甲第3号証:米国特許第3,760,399号明細書

甲第4、第5号証:実開昭54-159993号公報、及びその出願の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム

甲第6号証:米国特許第3,839,640号明細書

甲第7号証:米国特許第3,928,843号明細書

甲第8号証:米国特許第3,524,180号明細書

甲第9号証:「高分子辞典」朝倉書店(昭46-6-30)668頁

甲第10号証:「プラスチックフィルム-加工と応用-」技報堂出版(昭46-7-10)6頁

甲第11号証:「PLASTICS AGE ENCYCLOPEDIA」〔設計編1〕プラスチックス・エージ(昭50-8-11)45-54頁

甲第12号証:「赤外吸光図説総覧」三共出版(1973-2-15)1-16頁、335-341頁、357-361頁、372頁、386頁

甲第13号証:「分析化学」日本分析化学会20〔1〕(1971-1-5)106-108頁

甲第14、第15号証:実開昭54-107385号公報、及びその出願の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム

甲第16号証:「電子技術」日刊工業新聞社21〔2〕(昭54-2-1)41-46頁

甲第17、第18号証:実開昭51-7654号公報、及びその出願の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム

甲第19号証:特開昭49-103689号公報

甲第21号証:米国特許第4,081,680号明細書

甲第22号証の1、2:実開昭54-74279号公報、及びその出願の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム

甲第23号証(これは審決段階における書証番号である。):実公昭56-12746号公報

(3)  以下、本件考案が、請求人の提出した甲第3~第19号証及び第21~第23号証に記載された考案からきわめて容易に考案をすることができたか否かについて検討する。

<1> 本件考案は、人体が放射する波長10μm付近の遠赤外線エネルギーを検出するパッシブインフラレッド方式の移動人体検出装置に関する。本件考案では、このような移動人体検出装置において、明細書記載の問題点(甲第2号証の1第2欄15行~3欄18行参照)を解決することを課題として、前記要旨のとおりの構成を採用したものである。

<2> まず、本件考案と甲第3~第8号証に記載された考案を比較すると、甲第3~第8号証に記載された考案は、いずれも本件考案と同一の技術分野に属するパッシブインフラレッド方式の移動人体検出装置に関する考案である。しかし、甲第4~第8号証に記載された考案は、本件に係わる明細書に記載されている従来技術に相当するものであって、窓の材料として「ゲルマニューム板やポリエチレンフィルム」(甲第4、第5号証)、「ポリエチレンプラスチック」(甲第6号証)、「ポリエチレンフィルム」(甲第7号証)、「フィルタ材料」(甲第8号証)を用いることが記載されているに止まり、本件考案で用いている「高密度ポリエチレン」については記載されていないし、また、容器本体と窓が一体であるということも示されていないので、甲第4~第8号証に記載きれた考案はいずれも本件考案の構成要件である「容器と一体に成形された高密度ポリエチレンより成る窓」を具備していない。そして、甲第3号証に記載されたものは本件考案の必須の構成要件である「窓」に相当する構成を欠いている。

<3> そこで、本件考案における高密度ポリエチレンより成る窓が容器と一体に成形されたことの技術的意義について検討する。本件考案は、従来の移動人体検出装置における赤外線透過材の厚さが薄いことにより生じる明細書(甲第2号証の1)記載の問題点の解決を課題としており、そのために従来赤外線透過材を薄くすることに努めていた当業界の傾向に反し、同材料を厚くすること、厚くしても赤外線透過性を保持できる材料を選択することを着想し、加えて外観の簡略化、製造コスト低減等のため、赤外線透過材を枠体等により窓(開口部)に別途設けるよりも容器そのものに容器の一部として設けた方が望ましいとの観点から、明細書(甲第2号証の1)記載の問題点を解決するものとして、赤外線透過材(それは容器の材料でもある)として高密度ポリエチレンを採択したものであり、特に容器と一体に成形した構成により、枠体の不要化、全体形状の簡素化、美観の向上、製造工程の簡素化、製造コストの低減等の効果をもたらしたものということができる。結局、本件考案の窓の構成は、「赤外線透過材として従来のものより厚い高密度ポリエチレンを採択し、これにより容器を形成し、その容器の一部を赤外線透過部である窓とする」という技術思想に基づくものである。

(4)  そこで、まず、甲第4~第8号証に記載されたものにおいて、赤外線透過材である窓材である「高密度ポリエチレン」を用いることの容易想到性について検討する。

<1> 甲第9~第13号証には、高密度ポリエチレンの性質が記載されており、それによれば、本件考案の出願前、高密度ポリエチレンの硬度、成形性、加工性、透明性等についての物性、特に高密度ポリエチレンが従来移動人体検出装置の窓材に用いられていた低密度ポリエチレンに比し、硬質であり、人体の放射する波長10μm付近の遠赤外線エネルギーに対して優れた選択透過性を有することが公知であったことが認められるから、パッシブインフラレッド方式の移動人体検出装置において、人体の放射する波長10μm付近の遠赤外線に対して優れた選択透過性を有し可視光線を透過しない硬質の材料で形成しようとする場合において、高密度ポリエチレンを採用すること自体は当業者においてきわめて容易に想到し得るものといえる。

<2> ただし、甲第14~第16号証の窓材にポリエチレンを用いた人体検出用の赤外線検出器において、単に窓が厚く機械的強度を確保したこと(甲第14、第15号証)、または窓が湾曲していること(甲第16号証)から窓材のポリエチレンは高密度ポリエチレンであると推定することは困難である。

<3> さらに、甲第21号証をみても窓材が高密度ポリエチレンであことは記載されていない。

(5)  次に、窓を「容器と一体に成形」することの容易推考性について検討する。

<1> 甲第17、第18号証によれば、赤外線センサを有する人体検出装置であって、赤外線投受光器を設け、検出対象に向けて該赤外線投受光器よりの赤外線を照射し、該検出対象からの反射光を集束させる光学手段を有し、赤外線に対して高透過率かつ可視光線に対して低透過率を有する材質のカバーで、赤外線投受光器全体を覆ったものが記載されている。

そして、甲第17、第18号証の考案において、カバー6には赤外線投受光窓(赤外線透過部)に相当する部分が全体として一体的に成形されているものと認められるが、カバー6は、赤外線投受光器(容器)全体を覆うものであって、赤外線投受光器そのものではなく、また、赤外線透過部(窓)がカバー6の特定の一部に設けられているものではない点において、カバー6を高密度ポリエチレンが赤外線透過部(窓)として容器の一部に設けられた構成、すなわち「容器と一体に成形され」た本件考案の窓の構成と同視することは困難である。加えて、カバー6を設けている目的、赤外線透過窓がこれと一体的に成形されている技術的意義が、本件考案において窓を「容器と一体に成形」した目的ないし技術的意義と相違することは明らかである。すなわち、本件考案において、窓を「容器と一体に成形」しているのは、明細書(甲第2号証の1)記載の問題点の解決を課題として、赤外線透過材を厚くすること、厚くしても赤外線透過性を保持できる材料を選択することを着想し、加えて外観の簡略化、製造コストの低減等のため、赤外線透過材を枠体等により窓(開口部)に別途設けるよりも容器そのものに容器の一部として設けた方が望ましいとの観点から、上記構成を採択したものであるのに対し、甲第17、第18号証記載の考案は、特に投受光窓があることにより、不法侵入者に検出装置の存在を感知され、警備上好ましくないという欠点があったため、赤外線投受光器全体を覆うためにカバー6が設けられ、その一部に赤外線投受光窓に相当する部分が含まれているというものにすぎない。

<2> また、甲第19号証によれば、焦電型赤外線検知素子に係わり、特に検知効率を改良した素子に関するものであって、(イ)従来の焦電型赤外線検知素子において、その検知素子の強誘電体が熱攪乱、湿度の影響、熱放散等による不安定動作、劣化、感度の低下することを防止するため、真空容器中にシールして使用されており、赤外線をよく透過する窓材を容器に接着する際、接着部分が長期間の使用において劣化のため破損するか、製造工程における不完全な接着により、素子の劣化に結びついていたところ、このような欠点を除き、安定した素子を提供することを目的とし、(ロ)焦電効果を利用した赤外線検知素子において、この素子容器をポリエチレン等の赤外線透過部材で窓と同一材料により一体的に形成し真空シールした焦電型赤外線検知素子としたもの、具体的例として、窓部材1と容器3とを接着剤あるいは溶接により接着封止後封止用開口6よりポンプにより容器内の気体を排気し、容器内を所望の気圧としてから封止用開口6部分を熱軟化して封止切りを完了したもの(第2~第4図)、赤外線検出素子(基板上に設けられた強誘電体)4の検知面上にミラー8を設け検知面の側方に設けたスリット9からの入射光10の検知を可能とし、素子の入射光に対する厚さを軽減したもの(第5図)、及び赤外線検出素子4の出力リード線からスリット9を介して入射光を得るもので、後方あるいは側方にスペースのない場合に有効なもの(第6図)が記載されている。

そして、前記焦電型赤外線検知素子において、強誘電体を保護するため内部を真空にして密閉すること、第5図のミラー8は光学手段ではあるが、赤外線透過光を集束させるものとは記載されていないこと、第5、6図に示されるものは寸法又はスペース上の制約から入射光の方向を変えたものであることが認められ、これらのことから、この焦電型赤外線検知素子は、本件考案の移動人体検出装置に対応せず、むしろ、焦電型か差動型かということを除けば、本件考案の差動型赤外線検出センサに相当するとみるのが妥当である。したがって、本件考案の窓を「容器と一体に成形」したものは、甲第19号証における焦電型赤外線検知素子の窓を容器と一体的に形成したものに相当せず、両者は相違する。

加えて、焦電型赤外線検知素子の窓を容器と一体的に形成したことの目的、技術的意義が、本件考案において窓を「容器と一体に成形」した目的ないし技術的意義と相違することは明らかである。すなわち、本件考案において、窓を「容器と一体に成形」しているのは、明細書(甲第2号証の1)記載の問題点の解決を課題として、赤外線透過材を厚くすること、厚くしても赤外線透過性を保持できる材料を選択することを着想し、加えて外観の簡略化、製造コストの低減等のため、赤外線透過材を枠体等により窓(開口部)に別途設けるよりも容器そのものに容器の一部として設けた方が望ましいとの観点から、窓を「容器と一体に成形」した構成を採択したものであるのに対し、甲第19号証記載のものは、従来の焦電型赤外線検知素子において、その検知素子の強誘電体が熱攪乱、湿度の影響、熱放散等による不安定動作、劣化、感度の低下することを防止するため、真空容器中にシールして使用されており、赤外線をよく透過する窓材を容器に接着する際、接着部分が長期間の使用において劣化するため破損するか、製造工程における不完全な接着により、素子の劣化に結びついていたところ、このような欠点を除くために、窓を容器と一体に形成したというものにすぎない。

さらにいうと、本件考案においては、窓からの赤外線透過光を集束する光学手段は検出対象である移動人体の検知区域を規定するためであって、容器部分からの赤外線透過光は誤動作の原因となり有害であり、このことを前提として、赤外線を透過する窓と透過しない方がよい容器という機能の異なるものを一体にすることを見いだしたのであり、このことは本件考案の実施例の第1図(別紙図面1参照)において、窓2よりも容器1の厚さを大きくすることで裏付けられるのであって、甲第19号証のものでは、容器部分からの赤外線透過光が有害という前提は認められず、この点からみても、本件考案の窓を「容器と一体に成形」したことは着想において新規であるといえる。

<3> さらに、甲第22号証の1、2、甲第23号証(これは審決段階における書証番号である。)は同一の実用新案登録出願に係わる、それぞれ公開公報、願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム、及び公告公報であるが、甲第23号証(審決段階における書証番号)の公告公報は、本件考案に係わる出願の遡及した出願日後に発行されたものであって参照できないので、前記出願日前に発行された前2者を参照すると、赤外線を含む光線を扱う光電スイッチにおいて、光学長を長くとることを目的として、投光器又は受光器の前カバー7を透光性樹脂により成形し、その一部に凸レンズ71を同時に作成し、後カバー8に平面反射鏡81を取り付け、レンズ71と平面反射鏡81を組み合わせて反射型の光学系としたもの(第3図)が記載されている。しかし、この凸レンズ71は、光を集束するための光学手段であって、本件考案の窓には相当しないことは明らかなので、結局、本件考案の窓を「容器と一体に成形」した点は示されていない。

<4> そうすると、本件考案における課題の解決を図るために、甲第4~第8号証記載の移動人体検出装置に甲第17~第19号証、第22号証の1、2、及び第23号証(これのみ審判段階における書証番号)記載の技術を適用して、窓を「容器と一体に成形」することは、当業者においてきわめて容易に想到し得るということはできない。

<5> また、窓を容器と一体に成形することによりもたらされる効果、すなわち、枠体の不要化、全体形状の簡素化、美観の向上、製造工程の簡素化、製造コストの低減等の効果は、甲第4~第8号証記載の移動人体検出装置にはみられないところである。

(6)  したがって、甲第4~第8号証に記載された装置において、窓を高密度ポリエチレンとすることは当業者がきわめて容易に想到し得ることがいえても、さらにそのような材料から成る窓を容器と一体に成形することがきわめて容易に想到し得るとはいえないので、本件考案は甲第3~第19号証の及び第21号証、第22号証の1、2及び第23号証(これのみ審判段階における書証番号)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない。

(7)  以上のとおりであるので、請求人が主張する理由及び引用した証拠によっては本件考案を無効とすることはできない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)ないし(3)は認める。

同(4)のうち、<2>は争い、その余は認める。

同(5)のうち、<1>は認める。

<2>のうち、「本件考案の窓を「容器と一体に成形」したものは、甲第19号証における焦電型赤外線検知素子の窓を容器と一体的に形成したものに相当せず、両者は相違する。加えて、焦電型赤外線検知素子の窓を容器と一体的に形成したことの目的、技術的意義が、本件考案において窓を「容器と一体に成形」した目的ないし技術的意義と相違することは明らかである」こと、「甲第19号証のものでは、容器部分からの赤外線透過光が有害という前提は認められず、この点からみても、本件考案の窓を「容器と一体に成形」したことは着想において新規であるといえる」ことは争い、その余は認める。

<3>のうち、「この凸レンズ71は、光を集束するための光学手段であって、本件考案の窓には相当しないことは明らかなので、結局、本件考案の窓を「容器と一体に成形」した点は示されていない」ことは争い、その余は認める。

<4>、<5>は争う。

同(6)、(7)は争う。

審決は、引用例の開示事項の認定を誤ったため本件考案の進歩性の判断を誤った違法があるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(甲第19号証に記載された考案の誤認とこれに基づく容易推考性の判断の誤り)

審決は、「本件考案の窓を「容器と一体に成形」したものは、甲第19号証における焦電型赤外線検知素子の窓を容器と一体的に形成したものに相当せず、両者は相違する」と認定しているが、この認定は、本件考案と甲第19号証の記載されたものとの外形的相違点についての認定にすぎず、甲第19号証から本件考案が当業者においてきわめて容易に想到できるかどうかについての実質的判断を遺脱している。さらに、「加えて、焦電型赤外線検知素子の窓を容器と一体的に形成したことの目的、技術的意義が、本件考案において窓を「容器と一体に成形」した目的ないし技術的意義と相違することは明らかである」、「甲第19号証のものでは、容器部分からの赤外線透過光が有害という前提は認められず、この点からみても、本件考案の窓を「容器と一体に成形」したことは着想において新規であるといえる」との認定は誤りである。本件考案は、甲第19号証の記載から当業者がきわめて容易に想到できる程度のものである。

<1> まず、本件考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)にいう「容器と一体に成形された・・・窓」は、「容器」と「窓」とが別異の機能をもつ別個の構造物であることを前提とし、このような構造・形態が異なるものを製造過程で一体的に形作ることを意味するものである。

本件明細書(甲第2号証の1)には、「窓」が移動するという思想は片鱗さえ示されておらず、容器1の特定の部分に形状的・構造的に画然と区画された窓2が示されているだけである。

<2> 甲第19号証は、窓を「容器と一体に成形」するとの技術思想を直接的に開示している。甲第19号証明細書には、発明の名称を「焦電型赤外線検知素子」とし、特許請求の範囲に「この素子容器を赤外線透過部材により一体的に形成し」と記載され、また、発明の詳細な説明には、「即ち、本発明は赤外線を透過する部材を窓部材と供に、容器部材にも用いることを特徴とするものである。」(2頁左上欄1行ないし3行)、「1が赤外線透過窓部材で、容器3も同一材料により形成されている。」(2頁右上欄10行、11行)、さらに、図面(別紙図面2参照)を参照すると、参照符号1で示される窓部材が参照符号3で示される容器と一体成形すべきものであることが明確に示されている。なお、この甲第19号証の第5図(別紙図面2参照)には、赤外線検知素子に赤外線を導く光学手段(ミラー8)が設けられている。

また、窓部材1および容器3を構成する材料として、同一材料で、例えば、ポリエチレンが好ましく用いられることが記載されている(2頁左上欄7行、8行)。ここにいうポリエチレンは、窓とともに一体形成される容器の保型性にかんがみて、当然高密度ポリエチレンのことであると解される。

甲第19号証においては、窓が容器と一体に成形されているものであるが、そこには窓が容器の特定の一部に設けられるべきものであるとの認識があることは明らかである。したがって、甲第19号証は、「窓が容器の特定の一部に設けられていて、かつ、その窓が容器と一体に成形されている」という点において、本件考案にいう窓を「容器と一体に成形」するという構成と符合している。したがって、甲第19号証は、本件考案にいう窓を「容器と一体に成形」するという構成の予測性を十分に首肯させるものである。

<3> さらに、本件明細書(甲第2号証の1)第1図(別紙図面1参照)は、容器1と窓2が異なる部分であることを示している。してみると、本件考案において、窓と容器の一体成形とは、少なくとも窓と容器が予め別体で準備されていて、これを一体に接合するがごときものをも含むものと解される。このような構成は、甲第19号証の第1図及び第2図(別紙図面2参照)と符合することになり、本件考案に対する構成の符合性ないし予測性を一層強く首肯させるものである。

<4> 甲第16号証の42頁図5(b)には、入射した赤外線を集束させる凹面鏡部9があり、正面には湾曲形状としたポリエチレン・ウィンドー5を有するマイクロミラー型赤外線センサが図示されており、この全体構成は、窓と容器の一体構成の点を除けば、本件考案(甲第2号証の1)の第1図(別紙図面1参照)の実施例の構成と酷似している。

甲第19号証は、甲第16号証に記載されたものと同じく、焦電型赤外線センサに関するものであり、本件考案の赤外線検出センサを備えた移動人体検出装置と技術分野を同じくするものである。

本件考案は、国際特許分類G01Jに分類されており、甲第19号証は、日本特許分類111Fに分類されている。そして、国際特許分類G01Jは、日本特許分類111Fに対応するものである(甲第26ないし第28号証)。

したがって、甲第19号証に示されるような窓と容器の一体成形技術思想を、甲第16号証42頁図5(b)マイクロミラー型の赤外線センサに適用するようなことは、当業者においてきわめて容易に実施できることである。

<5> また、甲第15号証は、「人体および炎から発する赤外線を検出するためのものであって、前記両赤外線に対して平坦な感度特性を有し、焦電効果素子からなる検出素子、および前記検出素子に前記両赤外線を透過させるための窓部材を備える赤外線検出器において、前記窓部材をポリエチレンで構成したことを特徴とする、赤外線検出器。」を発明の要旨とするものであり、人体が放射する波長10μm付近の遠赤外線エネルギーを検出する装置である点において本件考案と軌を一にするものであるから、甲第19号証に記載の、窓と容器の一体成形の技術思想を本件考案のごとく適用することは、当業者においてきわめて容易に実施できたものというべきである。

<6> 本件考案において、窓を「容器と一体成形」することによって得られる効果は、「枠体を必要とせず」(甲第2号証の1第5欄2行)、「外観が簡略化され、部品点数が減少して製造コストが低減する」(同6欄26行ないし28行)ことである。

かかる効果は、元来異なった2部品を一体成形する場合に必然的に得られる効果であって、到底、予期しない効果とはいえないものである。

したがって、作用効果の予測性の観点からみても、窓を容器と一体成形することについての進歩性は否定されるものである。

(2)  取消事由2(甲第22号証の1、2に記載された考案の誤認とこれ基づく容易推考性の判断の誤り)

審決は、甲第22号証の1、2の考案につき、「この凸レンズ71は、光を集束するための光学手段であって、本件考案の窓には相当しないことは明らかなので、結局、本件考案の窓を「容器と一体成形」した点は示されていない」と判断するが、誤りである。本件考案は、甲第22号証の1、2の記載から当業者がきわめて容易に想到できる程度のものである。

<1> 甲第22号証の1、2に記載された考案も、本件考案と同じく「赤外線の測定」についての国際特許分類(G01J)及び日本特許分類(111F)に属する。すなわち、両者は同一の技術分野に属する。

<2> 甲第22号証の1、2には、第3図(別紙図面3参照)を参照して、窓となる部分(レンズ71の部分)とその周囲部を含む容器部分(カバー7の部分)を透光性(赤外線の場合は赤外線透過性)樹脂で一体成形した投光器が図解説明され(甲第22号証の2第4頁下から5行ないし3行)、さらに、この技術思想は受光器にも利用できることが明記されている(同4頁6行ないし9行)。

そして、凸レンズ71は、窓の機能を備えたものであることは明らかであって、この点についての審決の認定は誤っている。一般に、光学的機械器具において開口窓を封閉するのにレンズを使用することはきわめて普通に行われているところであって、パッシブインフラレッド方式の移動人体検知装置においても、例えば、甲第21号証の第5図を参照して説明されているように、容器の前面の窓に相当する部分を赤外線透過性のプラスチック材で形成したレンズ7で封閉したものが示されている。(5欄57行ないし6欄7行)。

<3> 本件明細書(甲第2号証の1)には、「本考案の光学手段は、凹面反射鏡3に代えて、遠赤外線を透過する材料より成る凸レンズにより実施しうること勿論である。」(4欄40行ないし42行)と記載されている。容器内における凹面反射鏡の使用に代えて、窓を凸レンズで形成することは、常套手段である(甲第21号証5欄57行ないし6欄7行)。本件考案において、遠赤外線を透過する材料を使用するのは窓にほかならないから、上記のように凸レンズに代えると、窓2が凸レンズで形成されることになり、これが容器1と一体形成される構成と理解できる(別紙図面1第1図参照)。そうすると、この変更例は、甲第22号証の2に記載の構成と実質上同一の構成を備えることになる。

<4> 窓の機能を有するレンズ71を容器の一部を構成する前カバー7とともに透光性樹脂により一体に成形することにより、本件考案におけると同様、「枠体を必要とせず」、並びに、「(レンズ機能を有する)窓を容器の一部として一体成形できるので外観が簡略化され、部品点数が減少して製造コストが低減する」との効果が得られることは明らかであり、この観点からも、窓を容器と一体成形することについての進歩性は否定されるものである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定及び判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

<1> 原告は、本件考案における「容器」と「窓」とが別異の機能をもつ別個の構造物であり、両者は外観的にも明確に区別されるものであると解釈される旨主張する。

しかしながら、本件考案の実用新案登録請求の範囲にいう「容器」とは、内容物を収容する入れ物であり、移動人体検出装置は、人が通るところに幾年月にもわたって設置されるものであるから、開口部や出入口はなく、外界と遮断されていなければならない。「窓」とは、人体が放射する波長10μm付近の遠赤外線エネルギーのうち、光学手段により集束されて差動型遠赤外線検出センサに入射する光が透過する容器の一部分である。容器の一部分を占める「窓」の領域は、光学手段構造、形状寸法と検出センサとの位置関係により一義的に定まる。しかし、「窓」にはその境界を表すための物理的手段を必要とせず、また存在しない。光学手段が変異すれば、それに従い窓領域も当然変化する。

「一体に成形された」とは、射出成形、圧縮成形、押出成形等のプラスチック成形技術により、窓を容器の一部分として、同時かつ一体に成形されたことを意味している。したがって、窓のみが高密度ポリエチレンより構成されるではなく、容器も窓と同じ高密度ポリエチレンより構成される。

本件考案は、窓や容器の厚さを構成要件にしていない。また、甲第2号証の1の第1図は一実施例にすぎない。

<2> 甲第14ないし第16号証及び第19号証のものは、大きさ、使用場所、使用目的、構造とも本件考案のものと相違し、解決課題等の考案の目的、考案の構成、考案の効果が異なる。すなわち、甲第19号証等のものは、通常は窓付き金属キャップに封入され、2本のリード線をもつ電子回路素子であってプリント配線基板に半田付けして使用され、その回路部は、例えば移動人体検出装置のような別個の物品の容器内に収納される。そのため、例えば、窓に「洋傘の先端などが当ると破損する」という問題などなく、また、例えば、通常は設計された光学系により集光された光線を受光するから、透過率も本件考案のもののように厳しく要求されない。

<3> さらに、甲第19号証に記載の考案は、「遠赤外線検出センサ」に相当するものであって、本件考案のものとは物品が異なり、考案の目的、構成、効果も異なる。

すなわち、甲第19号証には、焦電型赤外線検出素子において、経年変化による封止部の劣化により生ずるセンサ内の真空洩れを低減する目的で、窓部材1と容器3を個別かつ同一材料で形成し、その中に焦電型検知素子4を収容したのち、窓部材1と容器2を接着封止し、その後、容器内を真空ポンプにより排気する製造方法と、その方法により得られた焦電型赤外線検知素子の構造が記載されているのみであって、光を集束させる光学手段、その光学手段等を収容する容器についての記載はない。甲第19号証に記載の検知素子は、容器内に組み込まれて使用されるものであるから、冷暖房など外気が当たるおそれがなく、非常に微小なためその熱容量も非常に小さく、また、唯1個の素子しか設けられていないので、差動型に構成しえないなどの諸点において、本件考案とは物品において相違する。

<4> なお、審決は、「本件考案においては、窓からの赤外線透過光を集束する光学手段は検出対象である移動人体の検知区域を規定するためであって、容器部分からの赤外線透過光は誤動作の原因となり有害であり・・・この点からみても、本件考案の窓を「容器と一体に成形」したことは着想において新規である」(甲第1号証14頁14行ないし15頁4行)と容器部分からの赤外線透過光のみが有害であるかのように判断するが、正確ではない。

本件明細書(甲第2号証の1)には、「もう一つの解決困難な誤動作の要因は、窓による二次的熱放射である。窓に冷暖房の風が当たったり、強い赤外線が当たると、窓の熱容量が小さい場合は窓の温度が急速に変化し、窓による二次的熱放射エネルギーが急変すると誤動作が生じるという問題がある。」(3欄13行ないし18行)、「また、窓の表面の一部に熱風が当たった場合、窓がプラスチック成形物であってその熱容量が大きいので、窓が容器内部へ向かって放射する二次放射には時間遅れと境界のぼやけを生じ、従って差動型検出センサがこれを検出することはできない。」(4欄12行ないし17行)、「その集束位置に差動型赤外線検出センサを配設しているので、作用の項で述べた理由により、・・・可視光源の移動、及び熱風、冷風等が当たったときは差動検出センサの相殺作用により検出出力が小さく誤動作が少ない。」(5欄16行ないし21行)との記載がある。

これらの記載から明らかなように、冷暖房の風や、床面上に敷かれたマットに陽が当たるなどの強い赤外線は、誤動作の原因になるという点で有害であるが、その赤外線は窓部分に当たるか、窓以外の容器部分に当たるにかかわらず有害である。本件考案がその悪影響を殺して無害なものにしているのは、窓が一体成形された容器がプラスチック成形物であってその熱容量が大きいことと、差動型赤外線検出センサを有していることの相乗効果によるのであって、審決がいう、「本件考案の実施例の第1図において、窓2よりも容器1の厚さを大きくすること」に起因するのではない。

<5> 特許庁が採用している国際特許分類のGセクション物理学の「G01測定;試験」には、古い歴史をもつ技術分野については比較的細かく分類されているが、「遠赤外線エネルギの測定」は新しい分野のため、それに該当する細分類がなく、やむを得ず、スペクトル分析、偏光の測定、色の測定、光速の測定等とともに「G01J赤外線、可視光線または紫外線の強度、速度、スペクトル、偏光、位相またはパルスの測定;色の測定;放射温度測定」のグループに分類されている。このような事情のため、「移動人体の検出」と「焦電型赤外線検知素子」とは同じ細分類に属しているにすぎない。

(2)  取消事由2について

甲第22号証の2の第3図(別紙図面3参照)には、「前カバー7を透光性樹脂により成形し、その一部にレンズ71を同時に作成し、後カバー8に平面反射鏡81を取付け」た考案が開示されている。しかし、このレンズ71を透過する光は、投光素子1又は光電素子9が発する強力な赤外線又は可視光線であって、体温36℃の人体が放射する波長10μm付近の微弱な遠赤外線ではない。

仮に、この光電スイッチの投光素子を受光素子に置換して受光器を構成したとしても、そのような受光器を本件考案と同じ移動人体検出装置に転用しようとすれば、前カバー7よりも肉厚の大きいレンズ71を50μm程度のフィルムに置換しなければならず、それでは光学系が成立しない。

その意味で、「凸レンズ71は、光を集束するための光学手段であって、本件考案の窓には相当しないことは明らかなので、結局、本件考案の窓を「容器と一体に成形」した点は示されていない。」(甲第1号証15頁19行ないし末行)との審決の認定は正当である。

また、甲第22号証の2のものは、本件考案の原理、解決課題、構成、作用が本件考案と相違する。すなわち、甲第22号証の2のものの投光部は発光素子の出力光を集光して1本の光ビームに形成し、受光部はその1本の光ビームのみを受光する位置に配設され、受光の有無を判別してスイッチ出力を得ている。したがって、受光部の窓は予め設計された強度の光ビームをある程度透過すれば足りる。また、検出範囲は投光部と受光部を結ぶ1本の直線上、あるいはミラーを併用する場合は1本の屈折した直線上に限られ、例えば、その直線の下を人が這って通り抜けたときは検出されない。これに対し、本件考案は、第2図(別紙図面1参照)に示した特性に従って、人体(36℃)が四方八方へ放射している微弱な遠赤外線エネルギーを検出しようとするものである点、検知エリアが例えば3m×10mという広域である点などで、甲第22号証の2の物品とは根本的に相違し、多くの解決課題を有していた。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件考案の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(3)(一致点、相違点の認定)、(4)<1>、<3>(「高密度ポリエチレン」を用いることの容易推考性の判断)並びに(5)<1>(甲第17、第18号証に基づく「容器と一体に成形」の容易推考性の判断)は、当事者間に争いがない。

2  上記1に説示の事実(審決の理由の要点(3)中、本件考案の記載事項の認定)及び甲第2号証の1によれば、本件明細書には、次の記載があることが認められる。

(1)  「(考案が解決しようとする問題点)人体検出装置を防犯機器に用いる場合は、容器が堅牢でなければならず、また、自動ドアーの開閉制御に用いる場合も人が通る場所に設置されるので、容器が堅牢でなければならない。

ところが、遠赤外線を透光させる材料については殆ど研究が進んでおらず、・・・ポリエチレンフィルムが各種樹脂の中で比較的透過率の良いことが知られているが、それでも、センサ感度と増幅回路のSN比に限界があるため、透過窓による減衰を可及的に小さく抑えることが重要であり、そのポリエチレンフィルムの厚さを可及的に薄くすることに当業者の努力が払われていた。その結果、厚さ50~100μmのきわめて薄いポリエチレンフィルムが使用されている。

ところが、厚さ50~100μmのポリエチレンフィルムは、遠赤外線ばかりでなく可視光をも透過するため、例えば巡回警備員の照明灯、走行車輛のヘッドライト等で誤動作するという問題があり、また、内部が透けて見えることが商品として好ましくないため、これを着色して用いると今度は遠赤外線までも減衰させるという問題が生ずる。更にフィルムは、強度的に弱いので桟を設けるなどの補強策が採られていたが、それでもなお、洋傘の先端などが当ると破損するという問題があった。

もう一つの解決困難な誤動作の要因は、窓による二次的熱放射である。窓に冷暖房の風が当たったり、強い赤外線が当たると、窓の熱容量が小さい場合は窓の温度が急速に変化し、窓による二次的熱放射エネルギーが急変すると誤動作が生じるという問題がある。」(2欄11行ないし3欄18行)

(2)  「(問題点を解決するための手段)10μm付近の遠赤外線をよく透過するが可視光線、近赤外線をよく透過しない材料を新たに発見するため、・・・試験を繰り返した。その結果、高密度ポリエチレンが、遠赤外線と可視光線の透過率の比率が大きく本考案の窓の材料に適していることを発見するに至った。」(3欄20行ないし28行)

(3)  「(作用)窓の表面の一部に熱風が当たった場合、窓がプラスチック成形物であってその熱容量が大きいので、窓が容器内部へ向かって放射する二次放射には時間遅れと境界のぼやけを生じ、従って差動型検出センサがこれを検出することはできない。

窓がプラスチック成形物であるため、その厚さは通常1~数mmであり、通常の窓面積10cm2以下の場合、指で押しても破壊されない強度を有する。」(4欄12行ないし20行)

(4)  「(実施例)第1図に本考案実施例の断面図を示す。

容器1の前面に窓2が設けられ、この窓2は容器の一部分を構成している。容器内には凹面反射鏡3と、差動型遠赤外線検出センサ4が配設されている。窓2を散乱することなく透過した入射光は、凹面反射鏡3により集束されて差動型遠赤外線検出センサ4に焦点を結ぶ。」(4欄26行ないし32行)

実施例の断面図を示す第1図(別紙図面1参照)によれば、窓2の部分は、容器1の部分より薄い断面形状を有していることが認められる。

(5)  「(考案の効果)本考案によれば、窓を高密度ポリエチレンの成形物により形成しているので、従来のフィルムのように枠体を必要とせず、当該検出装置の容器と一体に形成することができ、・・・当該検出装置の全体形状が簡素化されて美観が向上し、かつ製造コストが大幅に低減された。」(4欄末行ないし5欄7行)、「窓を容器と同様に堅牢にすることができ外部からの破壊が困難になって」(5欄10行、11行)、「高密度ポリエチレンより成る窓の透過光を光学手段により集束させ、その集束位置に差動型赤外線検出センサを配設しているので、・・・遠赤外線の光源の移動を正確に検出し、可視光源の移動、及び熱風、冷風等が当ったときは差動検出センサの相殺作用により検出出力が小さく誤動作が少ない。」(5欄14行ないし21行)

3  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

<1>  まず、取消事由の当否の検討の前提となる、本件考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)にいう「窓」の意義について検討する。

前記2に検討したところ、特に、ポリエチレン薄膜を窓として用いている従来の移動人体検出装置の容器は当然遠赤外線を透過しないものと認められるところ、本件考案ではこの容器の部分の意義を変更することをうかがわせる記載はないこと、本件考案の実施例において、窓2の厚みは容器1の厚みよりも薄く、凹面反射鏡3は遠赤外線の透過領域を定めるものではなく、窓2から入射する遠赤外線のみを集束するものとして配置されていることにかんがみると、本件考案の要旨にいう「窓」は、容器と窓という異なる機能を有する2つの部材を一体に成形して、容器の特定の一部が窓となっているものであって、遠赤外線を透過しない容器と遠赤外線を透過する窓とを一体成形したものと認められる。

この認定に反する被告の主張は、上記に説示したところに照らし、採用できない。

<2>  審決の理由の要点(5)<2>(甲第19号証に基づく「容器と一体に成形」の容易推考性の判断)のうち、「本件考案の窓を「容器と一体に成形」したものは、甲第19号証における焦電型赤外線検知素子の窓を容器と一体的に形成したものに相当せず、両者は相違する。加えて、焦電型赤外線検知素子の窓を容器と一体的に形成したことの目的、技術的意義が、本件考案において窓を「容器と一体に成形」した目的ないし技術的意義と相違することは明らかである」こと、及び、「甲第19号証のものでは、容器部分からの赤外線透過光が有害という前提は認められず、この点からみても、本件考案の窓を「容器と一体に成形」したことは着想において新規であるといえる」ことを除く事実は、当事者間に争いがない。

<3>  前記2及び上記<2>に説示した事実によれば、

(a) 本件考案は、赤外線検出センサを有する移動人体検出装置に係る考案であるが、甲第19号証に記載の考案は、赤外線検出センサ自体の考案である。

(b) 窓と容器を一体に成形した技術的意義に関し、本件考案は、従来の移動人体検出装置における赤外線透過部材の厚さが薄いことにより生ずる問題点の解決を課題とし、そのため赤外線透過部材の厚さを厚くしても赤外線透過性を保持できる材料を選択することを着想し、加えて、製造コストの簡略化等のため、赤外線透過材を容器そのものに容器の一部として設けた方が望ましいとの観点及び窓がプラスチック成形物であったほうが熱容量が大きく、窓の二次的熱放射エネルギーの急変を避けることができるとの観点から、上記問題点を解決するものとして、赤外線透過材として高密度ポリエチレンを採択したものである。これに対し、甲第19号証に記載された考案は、従来の焦電型赤外線検知素子の真空シールでは、窓材と容器との接着部分の劣化、また、製造工程における不完全な接着により素子を損なう可能性があることから、赤外線透過部材を容器部材にも用いて一体的に形成したものであって、経年変化による封止部の劣化等を抑え、また素子の入射方向を自由に選択できる効果を奏するものである。

(c) 窓と容器の関係に関して、本件考案では、遠赤外線を透過しない容器と遠赤外線を透過する窓とを一体成形したものと解されるのに対して、甲第19号証に記載された考案は、一体成形の結果、容器全体が赤外線を透過するものである。

以上の点からすると、甲第19号証に記載の考案が赤外線の測定という本件考案と同一技術分野に属するとしても、本件考案が甲第19号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと解することはできず、これと同旨の審決の判断に誤りはないと認められる。

<4>  原告の甲第15及び第16号証に基づく主張(請求の原因4(1)<4>、<5>)は、それらの窓材のポリエチレンが高密度ポリエチレンであるとしても(甲第1号証9頁11行ないし17行参照)、それらに甲第19号証に記載の考案を適用すれば、容器自体が赤外線を透過する構成となり本件考案とは異なる構成のものとなるにすぎないから、上記認定を左右するものではない。

また、原告の甲第29号証に基づく主張も、上記判断を左右するものではない。

<5>  そして、本件考案は、少なくとも「枠体を必要とせず」、「外観が簡略化され、部品点数が減少して製造コストが低減する」効果を生ずるものと認められる。

これらの効果を格別のものではないと解することはできず、これに反する原告の主張は採用できない。

<6>  したがって、原告主張の取消事由1は、理由がない。

(2)  取消事由2について

<1>  審決の理由の要点(5)<3>のうち、「この凸レンズ71は、光を集束するための光学手段であって、本件考案の窓には相当しないことは明らかなので、結局、本件考案の窓を「容器と一体に成形」した点は示されていない」ことを除く事実は、当事者間に争いがない。

<2>  前記2及び上記<1>に説示の事実によれば、

(a) 窓又は凸レンズと容器を一体に成形した技術的意義に関し、本件考案は、従来の移動人体検出装置における赤外線透過部材の厚さが薄いことにより生ずる問題点の解決を課題とし、そのため赤外線透過部材の厚さを厚くしても赤外線透過性を保持できる材料を選択することを着想し、加えて、製造コストの簡略化等のため、赤外線透過材を枠体等により窓に別途設けるよりも容器そのものに容器の一部として設けた方が望ましいとの観点及び窓がプラスチック成形物であったほうが熱容量が大きく、窓の二次的熱放射エネルギーの急変を避けることができるとの観点から、上記問題点を解決するものとして、赤外線透過材として高密度ポリエチレンを採択したものである。これに対し、甲第22号証の1、2に記載された考案は、赤外線を含む光線を扱う光電スイッチにおいて、光学長を長くとることを目的として、投光器又は受光器の前カバーを透光性樹脂により成形し、その一部に凸レンズを同時に作成したものである。

(b) 窓又は凸レンズと容器の関係に関して、本件考案では、凹面反射鏡3に代えて、遠赤外線を透過する材料より成る凸レンズを使用したとしても、遠赤外線を透過しない容器と遠赤外線を透過する凸レンズとを一体成形したものとなると解されるのに対して、甲第22号証の1、2に記載された考案は、凸レンズ71を含む前カバー7全体が透光性となるものである。

以上の点からすると、甲第22号証の1、2に記載の考案が赤外線の測定という本件考案と同一技術分野にあり、本件考案において窓2を凸レンズで形成したものと比較したとしても、本件考案が甲第22号証の1、2に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと解することはできず、これと同旨の審決の判断に誤りはないと認められる。

これに反する原告の主張は、上記に説示したところに照らし、採用できない。

<3>  そして、本件考案は、少なくとも「枠体を必要とせず」、「外観が簡略化され、部品点数が減少して製造コストが低減する」効果を生ずるものと認められる。

これらの効果を格別のものではないと解することはできず、これに反する原告の主張は採用できない。

<4>  したがって、原告主張の取消事由2は、理由がない。

4  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

<省略>

別紙図面3

<省略>

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